失敗すると見られていたiPhone
Amazonへの批判に続き、さらにアル・ライズ氏は2007年6月、米国の広告専門メディア「AdAge」で、発売直後のiPhoneに関して下記のような記事を書いています。
「iPhoneは大きな失望となるだろう…iPodは発散デバイスだが、iPhoneは収束デバイスだ。この2つの間には大きな違いがある。ハイテクの世界では、発散デバイスは素晴らしいものだった。しかし、コンバージェンスデバイスは、ほとんどの場合、見事な失敗に終わった」
iPhoneは発売時、iPod機能のある携帯電話として紹介されていました。初年度の売上は、全携帯の1%程度で、出ては消えていく携帯電話ブランドと同様の立ち上がりでした。その後、インターネット上で展開できる多様なサービス、そしてデジタルサービスをつなぐ機器として進化させ、圧倒的な成功を納めています。
Amazon同様に、STPレベルで、複数の顧客セグメントとそのニーズに対して、複数のプロダクトと言える機能・便益を提供し、ポジショニングを変化させ拡大させているのです。
MMのポジショニング先行は主従が逆転する
AmazonとiPhoneの事例に共通するのは、アル・ライズ氏は、「ポジショニング」はその時点で、特定の顧客に明確に成立させ、絞り込む(フォーカス)こと、そして、ブランドとして一貫すべきものとしてMM(マーケティングミックス)の一部である広告コミニケーションの観点で捉えています。しかしながら、AmazonもiPhoneも「ポジショニング」をSTPレベルでの戦略レベルで捉え、その戦略で成立可能な多種多様な顧客ニーズを捉えるべく、MM(マーケティングミックス)を異なる顧客ニーズや顧客層ごとに変化させ、実行しているということです。
インターネットでは、多種多様な顧客層ごとにターゲットをしぼった訴求や提案が可能であることを最大限に利用し、まさに顧客ニーズの変化はもとより、競合や社会環境の変化に応じて、STPレベルでのポジショニングと複数のMM(マーケティングミックス)を見直しながら変化させてきたのです。すなわち、複数の顧客とプロダクトの便益や独自性の提案(WHO&WHAT)と複数のHOWの組み合わせを柔軟に運用し続けているのです。
テレビなどのマス広告がコミュニケーションの主体であった時代に比べて、インターネット、スマートフォンが浸透した現在においては、AmazonやiPhoneに限らず、同じブランド名称の下で、多様な顧客セグメントに多様な複数の便益を提供することは容易です。つまり、このデジタル時代では、ブランド自体のSTPレベルでの「ポジショニング」とMMレベルの広告コミュニケーションの「ポジショニング」の意義の差異は、ますます大きくなっているともいえます。
マーケティングの5つのステップに戻って考えると、本来、MMを導くためのSTPのポジショニングを決めるのではなく、MMのPromotion(プロモーション・広告)の訴求の絞り込みにおけるポジショニングが先行して、STPを不必要に狭く定義し、主従が逆転している状態が、ここで取り上げた問題なのです。
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