3-1-3:テレビメディアの一般理論への疑問、スリーヒッツセオリーは今でも通じるのか

テレビCMの「スリーヒッツセオリー」は現代の視聴者行動とかい離しています。CMの接触頻度以上に、視聴者は誰なのかを考えたり、それに対してクリエイティブを作ったりする影響がより重要です。
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テレビCM活用に関する3つの疑問

さらに、本サービス「Wisdom」を運営する西口が関わった実務実績やデータに対して整合性のない、テレビCM活用に関連する3つの仮説理論への疑問を解説します。本サービス内「マーケティングの大前提」における「テレビメディア運用の基本」でも少し触れましたが、改めて2回に分けて詳説します。

  1. スリーヒッツセオリー

  2. クリエイティブの摩耗(ウォーンアウト)

  3. サチュレーション(飽和)

1970年代の理論は現代の視聴者に有効か

1.スリーヒッツセオリー

テレビCMの活用にあたって、広告業界では「1人の視聴者が特定商品のテレビCMを3回見ればその商品を認知する」と仮定し、CM接触回数(フリークエンシー)3回を目標指標とする場合が多いです。根拠としては、以下の「スリーヒッツセオリー(3ヒッツ理論)」と呼ばれる仮説理論があります。

スリーヒッツセオリー(Three Hits Theory)は、広告に関するマーケティング理論のひとつで、特にテレビ広告やラジオ広告などのメディア広告においてよく言及されます。この理論は、1972年にアメリカのマーケティング専門家であるハーバート・クルーゲン(Herbert Krugman)氏によって提唱されました。彼の研究によれば、視聴者が広告のメッセージを効果的に認知し、記憶するためには、最低でも3回その広告に接触する必要があるという考え方です。具体的には、以下のように整理されています。

  • 1回目の接触(First Hit):視聴者は広告に気づき、初めてその存在を認識する。しかし、単に存在を認識しただけでは、まだ広告の内容やメッセージを深く理解していないことが多い

  • 2回目の接触(Second Hit):再度広告に接触することで、内容やメッセージに対する理解が深まる。この段階で、広告のメッセージが徐々に記憶に残り始める

  • 3回目の接触(Third Hit):3回目の接触で、広告のメッセージが視聴者の記憶にしっかりと定着し、実際に行動を促す可能性が高まる。この段階で、視聴者は広告の内容をしっかり覚え、製品やブランドを積極的に考慮するようになる

いまだに、広告業界、テレビCMのメディアプランニングで活用されるシンプルな仮説理論であり、ひとつの目安にはなりますが、現代における有効性には疑問があります。これはテレビなどのマスメディアしか存在していなかった1970年代の仮説理論であり、インターネットで無数にメディアが増え、スマートフォンを常時携帯し、テレビ視聴時もスマートフォンを閲覧する2024年の現代においては、視聴者が目にする広告の量も質も、また視聴態度もまったく異なるからです。

WHOとWHATを踏まえたテレビCM自体の影響を重視する

しかし、現代においても、この仮説理論は一般的に使われています。例えば、テレビCMで特定顧客層へフリークエンシーを3回達成するには、約400GRPが必要といわれています。また、リーチ数とGRPの関係を示すリーチ曲線というグラフを使って、認知率50%を目標にする場合、フリークエンシー3回を達成するために必要なGRP投下量を導き出し、400GRP~500GRPが必要とされることがあります。あるいはノーム値という、過去の調査結果から導き出された基準値を使って、GRP投下量とCM認知率の関係性から、目標とするCM認知率を達成するために必要なGRP投下量を推定したりします。

しかし、西口の関わってきたビジネスでは、この理論は成り立っていませんでした。特にスマートフォンが普及した以降では、1回の接触で一気に購買行動が起こることもあれば、5回以上の頻度でも何の変化も見られないことが現実でした。つまり、テレビCMが接触した顧客(WHO)が正しいかどうか、その顧客(WHO)への訴求内容(WHAT)が有効なのかどうか、それらを増幅させるクリエイティブの強さがあるのかどうかといったテレビCM自体の影響の方が、接触頻度より重要なのです。

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《西口一希》

テレビCM活用における認知率の罠