CMが話題になれば売上につながるわけではない
CM認知率に関して、2つの罠を説明します。
1.「CM認知率が上がればプロダクト購入意向が上がる」という罠
ひとつ目は、すでに解説したように、CM認知率が上がっても必ずしもプロダクト認知率が上がるわけではない事実を理解せず、CM認知率が上がればプロダクト購入意向が上がるとして捉えてしまう罠です。
CM認知率は、CMの内容が特徴的で際立っていればいるほど高まります。いわゆるCMクリエイティブが尖っていれば、CM認知率は上昇し、話題になり、場合によっては、広告賞を受賞したりします。しかし残念ながら、このように広告賞を獲ったCMを投入しても、ビジネス結果は向上せず期待外れになる場合が少なくありません。際立ったCMクリエイティブが、そのCM自体の認知を上げたに過ぎません。CM認知率の上昇がプロダクト認知率に上昇につながっていなければ、その後の購入意向の向上、そして売上向上を期待することは難しいのです。
もちろん、尖ったクリエイティブが、そのプロダクト認知を向上させることにつながっていれば、ビジネス結果は期待できます。これが本来、クリエイティブに期待することですが、クライアントもプロダクト認知率とテレビCM認知率を誤解しているので、期待がずれてしまうのです。
テレビCMは必要なのか? テレビCMは効果があるのか? 尖ったクリエイティブは重要なのか? 機能訴求では意味がないのか? など、長らく続くテレビCMとクリエイティブ関連の議論は、この誤解がひとつの要因です。
2.CM認知率データの取得方法における罠
2つ目は、このCM認知率のデータの取得方法です。CM認知率は、対象顧客層へのアンケート調査で「CMを見たかどうか」を尋ねたデータを取得するのですが、多くの場合、CM認知度が現実以上に高くなってしまうバイアスがかかっています。
まず、その質問は、該当するプロダクトに関する様々な質問項目をたくさん聞いた後に設定されている場合が多いです。また、CM認知度に関する質問方法としては、対象のCMをアンケート回答中に回答者が自ら再生してご覧いただいて(多くは2回再生)、「このCMを見たことがあるかどうか」のデータを取得しています。当然、回答者は、アンケート回答に取り掛かる前の状態に比べて、このプロダクトとCMに強いバイアスがかかって、現実以上に高いCM認知率の結果になります。
この方法では、実際にアンケート前に、見たことがなくても見たような気にもなります。実際にマーケットで流したことのないテレビCMの認知を取っても、10%を超える認知度が出てくることがあります。そもそもCM認知度データの取得方法は難しいのですが、アンケート調査をCM認知だけにして、簡単な文章で説明した他社プロダクトも含む複数CMの中から見たものを選んでもらう方式でCM認知度を取得すれば、はるかに低い数字となります。これはデータ取得方法の罠です。
プロダクト認知率の検証が必要
つまり、売上向上を目的とする評価指標・KPIとしては、CM認知率ではなくプロダクト認知率を検証すべきなのです。さらに理想的なのは、プロダクト認知と、そのプロダクトの便益や機能の認知率に着目していただきたいです。顧客が買う理由となる様々な便益や機能の認知は、単なるプロダクトとしての名称認知よりも購入意思との相関が高くなるので、より精緻な評価指標・KPIとして検討すべきです。
また、目にするデータの定義を必ず確認すべきです。社内資料やプレゼンテーション資料では、たくさんのデータを使用するので、シンプルにするために、そのデータがどのように取得されたか、その調査方法や、対象母数の情報がない場合が非常に多いです。上記のようなCM認知度も単に「認知度」と表記されれば、経営を左右する大きな判断ミスにつながります。データ定義の確認は習慣化することをお勧めします。
プロダクト認知では売上伸長しない場合
多くのカテゴリーで「プロダクト認知とプロダクト購入意向」「プロダクト購入意向と売上伸長率」には正の相関関係が見られますが、相関関係が出ない場合もあります。
シャンプー、ビール、衣料用洗剤など、そのカテゴリー自体の認知が高く、顧客が購入する方法(小売)が身近にある場合と異なり、少数顧客を対象にしたカテゴリー認知の低いプロダクトなどでは、プロダクト認知が上がっても購入意向は高まらず、売上にもつながらない場合があります。例えば、トリュフのような高級食材や、低ナトリウム食のような医療食、培養肉のような代替プロテイン、家庭用の水質検査キットなどは、対象顧客が少なく購入ルートも少ないので、テレビCMでプロダクト認知を向上させても、ビジネスには直接の影響を与えません。
このようなプロダクトは、カテゴリー自体の便益や特徴の認知が弱いので、プロダクトの名称認知の向上以上に、そのプロダクト自体の便益や機能の認知率向上を目的にすべきです。顧客が買う理由となる様々な便益や機能の認知は、単なるプロダクト認知向上よりも、購入意思と相関が高くなるからです。
例えばトリュフであれば、自社のプロダクト名称の認知より、日常のサラダや料理に加えることで得られるおいしさや、それらを家族やお客様へ振る舞うことで得られる非日常の喜びや楽しみを便益として訴求し、最後に自社のプロダクト名称の認知に結びつけて流通経路を確保すれば、購入意向の向上から売上伸長につながります。
同様に、高血圧や心臓病などの方向けの医療食である低ナトリウム食も、食塩を摂り過ぎることで起こる病気リスクや、身体のむくみ軽減などの便益認知に焦点を当てて、最後に自社のプロダクト名称の認知に結びつけてECなどで流通経路を確保すれば、購入意向の向上から売上伸長につながります。
このように「認知率」といっても、カテゴリー、プロダクト、プロダクトの便益や機能、テレビCMなどの対象次第で、その意味も期待できる結果もまったく異なるのです。これらを顧客理解に基づいて設計することで、テレビCM投資、マーケティング投資の投資対効果を大きく高めることが可能なのです。
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