

CM活用における常識を疑う
前回のスリーヒッツセオリーに続けて、本項では2つ目(クリエイティブの摩耗)と3つ目(サチュレーション)を解説します。2つ目と3つは関連しているので、合わせて説明していきます。
2.クリエイティブの摩耗(ウォーンアウト)、3.サチュレーション(飽和)
テレビCMの活用にあたって広告業界では、スリーヒッツセオリー同様に、以下のような一般的な常識があります。しかし、これらも西口の関わってきたビジネスでの結果とは整合性がなく、また論理的に考えても疑問があります。
常識①:同じCMを繰り返し放送すると、フリークエンシーが一定以上になると効果が頭打ちになり、視聴者に飽きや嫌悪感を与えるリスクが生じる。従って効果的なCM出稿を続けるためには、クリエイティブを定期的に見直し、視聴者に新鮮さを保つ工夫が必要
常識②:テレビCMの効果には限界があり、ある時点でリーチが頭打ちして「サチュレーション(飽和)」状態になり、CM出稿し続けても、費用対効果が低下する。特に、若年層などテレビ視聴時間が短い層では、サチュレーションポイントが早く訪れる傾向がある
このような一般論を元に、テレビCMは定期的に新作を制作して、一定期間で新たなCMに切り替えます。しかし、上記のような現象は論理的に説明ができません。
すべての潜在顧客にリーチしたのか
クリエイティブが摩耗するにしても、サチュレーション(飽和)があるにしても、それはテレビメディアで接触可能な、対象プロダクトの潜在的な顧客層のほとんどすべてにテレビCMがリーチし、何度も接触している前提に立っています。潜在顧客が100万人であれば、そのほとんどにテレビCMが接触し終えた状態で、摩耗や飽和が起こっていると判断できるのです。
しかしどんなカテゴリーであっても、対象顧客層の潜在層のほとんどにリーチするには、どれほど精緻なメディアプランニングを行っても、累計で数万GRP、数億円以上の投資が必要です。そもそも「認知の罠」で解説したように、GRPと獲得できるプロダクト認知の関係が明確ではなく、過剰評価されているのもこの誤解を作る要因だと考えられますが、ひとつのテレビCMにそれだけの投資をしているケースは稀です。テレビメディアでまだリーチ可能な未認知層、未視聴層はどれだけ残っているでしょうか。まだ、数多くいるのではないでしょうか。
また、現実として、同じテレビCMを何年も継続して流し続けて、継続的にビジネスを伸ばしているプロダクトはたくさんあります。地方でも、同じCMでビジネスを伸ばし続けているプロダクトは数多くあります。もちろん、例えばファッションなど、その時代の流行性に左右されるカテゴリーでは同じテレビCMでは効果はないかもしれませんが、それはカテゴリーの特性です。
不要な投資や機会損失のリスクを防ぐ
さらに、どんなプロダクトであっても、常に新たな潜在顧客は生まれ続けています。例えば、スキンケア商品を自ら購入するエントリー層が高校生であれば、今年の高校生に今のテレビCMは視聴していただけるかもしれませんが、来年新たに高校生になる現在の中学生はまだ興味を持っていないので、そのテレビCMは未視聴である可能性が高いです。しかし来年、高校生になって興味が出た際に、そのテレビCMを視聴すれば購入していただける可能性があります。あえて、新しいCMを作る理由はないかもしれません。
自社プロダクトの対象顧客層が誰であって、その中でのテレビCMの未認知層、未視聴層の割合がどれだけなのかを把握せずに、クリエイティブの摩耗(ウォーンアウト)やサチュレーション(飽和)といった一般論を単純適用すれば、効果のあるテレビCMを早くに諦め、効果のないテレビCMを投入するリスクが高まります。不必要な投資や労力を増やし、むしろ機会損失を招く可能性すらあるのです。
このように、テレビCM投資とテレビメディアの活用は、複数の要素を駆使して、投資対効果高くビジネス結果につなげていきます。そのためには潜在顧客層(WHO)が誰なのか、自社プロダクトで作り上げたい認知(WHAT)が何なのか、その結果、何をビジネスとして期待するのかを明確にする必要があります。そして、広告代理店やメディアパートナーと具体的に合意し、適切なテレビCMのクリエイティブ制作とメディア選定、またプランニングを進めることが重要になります。
「テレビCM活用における認知率の罠」完結
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