テレビCMは多くの顧客にリーチするが……
本シリーズでは、テレビCMを活用する際に多くのマーケターが陥る「認知率の誤解とその罠」に関して解説します。ここでの誤解とは、「認知率」は多くの場合で「CMを知っているか/見たことがあるか」を問うている(=CMの認知率)にもかかわらず、プロダクトの認知率だと捉えてしまうことを指します。
潤沢なマーケティング予算をもつ大手企業に限らず、スタートアップや中小企業においても、ビジネス成果を上げるためにテレビCMへの投資を検討したり、実行したりする場合があります。
テレビCM投資の前提には「プロダクト認知を高めれば、購入意向が高まり、売上が上がるはずだ」という考えがあります。たしかに多くのカテゴリーで「プロダクト認知とプロダクト購入意向」との間、さらに「プロダクト購入意向と売上伸長率」には正の相関関係が見られ、マーケティング研究者や広告代理店などからも多くの分析結果が発表されています。(以下、図はいずれもダミーデータでのイメージです)
CM認知率とプロダクト認知率を同一視してはならない
デジタルメディアやSNSが広がった2024年においても、テレビCMは短期間に多くの潜在顧客にリーチする強いメディアです。
よって、多くのカテゴリーにおいて、プロダクト認知を向上させるためにテレビCMへ投資を行うことは手段としては成立するので、このテレビCMで高い認知度を獲得するに必要なCMの投入量(GRP:Gross Rating Point)はいくらなのかを検討します。
まず「どのくらいのGRP量を投入(打てば)いいか?」に対する説明として必ず用いられるのが、テレビCM投入量に対して、どれだけ認知が上がるかという「認知曲線」です。この「認知曲線」 は、多数のデータの散布図の「近似曲線」によって描かれており、下記のような形になります。GRP量が増えれば増えるほど、CM認知率が上がる相関関係グラフが使われます。
ターゲット別や地域別に細かい計算はありますが、およそは、この相関グラフを使って、例えば50%のCM認知を獲得するためには何千GRP必要で、そのためには費用がいくらかかるかを算段するのですが、ここで誤解が起こります。
テレビCMに投資する前提の「プロダクト認知率の向上によるプロダクト購入意向率の向上」そして「プロダクト購入意向の向上からの売上伸長」に対して、このCM認知の役割が不明なのです。
CM認知率は、メディア関連の参考文献や記事などでも単に「認知率」とされることが多く、CM認知率をプロダクト認知率と同義であるかのように誤解した状態でテレビCM投入計画を進めている場合も決して少なくありません。CM認知率とプロダクト購入意向に関して、正の相関関係があるとする研究結果はほぼなく、あった場合でも、プロダクト購入率との相関関係では、プロダクト認知率がCM認知率よりもはるかに高いのです。つまり、CM認知率とプロダクト認知率を同一視してはならないのです。
実際のコンサルティングの現場でも、クライアント社内で経営陣も見ている公式資料で、CM認知率を単に認知率として長年使用していて、経営者もそれを自社プロダクトの認知率だと理解している場合もありました。あくまでCMの認知率であるのに、プロダクトの認知率として捉えて戦略を立案すると、当然ながら狙い通りに展開できる可能性は低くなります。
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