
近日発売予定の著書『マーケティング手法大全』で紹介するマーケティングの発展に関して大きな影響を与えてきた26人を含む41人の紹介と、主要な理論や研究の概要を解説します。マーケティングの学習と実践に役立てるべく、41人の貢献の中に見える共通項や異なる視点を学びとっていただければと思います。
エリック・リース(Eric Ries、1978年 - )は、アメリカの起業家、著述家であり、特に「リーン・スタートアップ」と呼ばれるビジネス手法を提唱したことで広く知られています。彼の著書『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす(The Lean Startup)』は、スタートアップ企業だけでなく、大企業における新規事業開発にも大きな影響を与えています。
「リーン・スタートアップ手法」
リーン・スタートアップは、無駄を徹底的に排除し、顧客からのフィードバックを迅速に取り入れながら、効率的に事業を成長させるための手法です。従来のウォーターフォール型開発のように、長期間かけて完璧な製品を開発するのではなく、必要最小限の機能を持つ製品(MVP:Minimum Viable Product)を素早く市場に投入し、顧客の反応を見ながら改善を繰り返していくというアプローチを取ります。
リーン・スタートアップの基本原則
リーン・スタートアップは、以下の5つの基本原則に基づいています。
起業家はいたるところにいる(Entrepreneurs are everywhere): スタートアップは、ガレージで生まれたばかりの小さな企業だけでなく、大企業の中の新規事業部門など、あらゆる組織に存在します。
起業とはマネジメントである(Entrepreneurship is management): スタートアップは、単なるアイデアや情熱だけでなく、体系的なマネジメントが必要です。
検証による学び(Validated learning): 顧客に対する仮説を立て、実験を通して検証することで、客観的なデータに基づいて意思決定を行います。
構築-計測-学習(Build-Measure-Learn): MVPを構築し、顧客の反応を計測し、そこから学びを得て製品を改善していくというフィードバックループを回します。
革新会計(Innovation accounting): 従来の会計指標ではなく、スタートアップの成長段階に合わせた独自の指標を用いて進捗を評価します。不確実性の高いスタートアップでは、一般的な管理会計では評価できないので、仮説から定量的な財務モデルを作成し、将来の事業を推測します。まずは、MVP(実用最小限の製品)から現状データ(ベースライン)を得て、その後、理想の状態に向けてエンジン(製品及び改善すべき製品要素)をチューニングし、最後に、方向転換(ピボット)するか辛抱するかを判断するということ。
「リーン・スタートアップの基本原則」
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「MVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)」
MVPは、顧客に価値を提供できる必要最低限の機能を持つ製品のことで、早期に市場に投入し、顧客からのフィードバックを得るために使用されます。MVPを構築(Build)し、顧客の反応を計測(Measure)し、そこから学び(Learn)を得て製品を改善していくというサイクル。このサイクルを高速で回すことで、効率的に事業を成長させることができます。また、検証の結果、当初の仮説が間違っていた場合、事業の方向性を大きく変更すること、検証の結果、仮説が正しかった場合、現在の方向性を維持し、改善を続けることを推奨しています。このMVPの登場で、必要最小限のマーケティング活動から始め、効果を見ながら徐々に規模を拡大していくという考え方が取り入れられるようになりました。

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